JIA日本建築家協会の支部である杉並地域会主催のイベント「建築家の本棚」参加に合わせて荻窪三庭園へ。1年前までの住まいのすぐ近くで、久しぶりではあるのだが懐かしさというよりは見慣れ過ぎる景色にまだここに住んでいるのではないかという錯覚に陥る。
まずはちょうど1年前に一般公開となった荻外荘へ。首相も務めた政治家・近衛文麿の邸宅として知られ、重要な政治の会合が行われた舞台ともなり、終戦時近衛はこの邸宅で自死している。建築家・伊東忠太の設計で、杉並区が手に入れ復元改修工事が行われた。建物の半分は豊島区に移築されていたようで、それを再移築して戻すという大掛かりの作業も含む。
基本的には日本的な書院造りの様式だが、要所に西洋や中国の意匠を取り入れている。創建時のタイルや壁紙や家具など、材料や仕上を残存する一部あるいは過去の写真から再現する作業は根気のいる作業だったようだ。自分も勤めているときに文化財保存に関わったことがありその苦労は想像できるが、過去の写真などから素材や色を想像して特注再現するのは楽しかったことを思い出す。特に高い天井の開放性と、庭とつながるガラス戸の様々な桟のデザインのフィルタが美しい。南側に面する芝生広場は以前と変わらず一般開放されていて、子供と時々遊びに来たことを思い出す。
道を介した向かい側には展示棟がこじんまりと建っている。プロポーザルで選ばれた隈研吾氏の設計として話題になっている施設でオープンして間もない。1階にカフェを有し、2階には荻外荘をはじめ荻窪の歴史や文化を伝える展示室がある。多角形の屋根と外部とつながる開放性が特徴ということで選定された。だがしかし、鉄骨の小屋組みとむき出しの耐火被覆、取って付けたようなルーバーも正直残念でならない。どうしてこうなってしまったのか。
その後はイベント会場の角川庭園へ。13年間しょっちゅう脇道を通っていたにも関わらず初めての訪問だった。ぐるりと回り込んでアプローチする庭とシャープなガラス戸で一体化する邸宅で、集会室は特に開放的で気持ちよかった。
そこに「建築家の本棚」イベント参加者20名ほどが集まり、「私の一冊」を語る4人のうちの一人として登壇した。影響を受けたオススメ本を1冊プレゼンするわけだが、選ぶのには色々迷って大変だった。たくさんあって大変というわけじゃなく、最近めっきり読書量が減って昔を思い出してもすぐに頭に浮かばない。ようやく選んだのは随分前に読み込んで感銘を受けた光についての本である。誰でも知っているような有名本よりはある程度マニアックな方がいいだろう。
「建築光幻学」は建築評論家:長谷川尭氏、建築家:黒川哲郎氏の共著で1977年出版の古い本だ。黒川先生は東京芸大の大学院で所属した研究室の恩師であるが、実は学生時代にはまともに読んでおらず先生が亡くなった2013年頃にちゃんと読んだと思う。サブタイトル「透光不透視の世界」の通り、「光は通すが視線は通さない」フィルターの重要性を説き、その光の扱い方と空間にもたらす効果を国内外、時代を超えた実例で考察している本だ。
光には2つの意味があると言う。1つはなにかを明るく照らして見えるようにすること。もう1つは光が光として空間を豊かに表現すること。前者は見える対象が主役だが、後者は光そのものが主役となる。近現代の合理主義によって空間における光の質は蔑ろにされてきたのではないか、という問いは自分に重くのしかかってきた。光の質は体感するものであってその評価や批評は感覚的なものになりがちだ。それを徹底して言語化しているという意味で、貴重な本だと思う。二人の詩的な表現も読んでいて楽しい。
この本で紹介されるメインの素材はガラスブロックだが、最近は以前より見かけることが少なくなってきて久しい。その実自分も採用したことはない。
黒川先生はガラスブロックのデザインをして商品化までされた建築家だ。常々建築においては「部分から全体」を考えることを大事にされており、晩年はスケルトンログ/ドミノと名付けた大断面製材と金物を組み合わせた工法をシステム化するなど「部品」にこだわっておられた。横浜国大から進学した自分は都市的な視点で建築を捉えることが多くアプローチの違いにギャップを感じたものだが、当時からもっとこういった本を含めて積極的に関わっていたらまた違っていたのではないか。遅きに失しているが、そういう反省の意味を込めての本の紹介だったと思う。
そして同年代の登壇者たちが多く、昔ながらの哲学的な建築話にまで話が及んで楽しかった。
懇親会のあと駅までの途中で大田黒公園ライトアップに数人で立ち寄る。ちょうどイベントの時期に遭遇してラッキーだった。ここも子供とよく来たことを思い出すが、入場料が掛かるなんて思い出になかった。
それはそうと、イベントに絡めて懐かしき荻窪の三庭園を巡るという大変充実した一日であった。
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