自邸マンションの改修

このたび長年親しんだ杉並区を離れることになった。といっても事務所ではなく自宅のお話。いつか賃貸生活を脱しようと企んでいたところ子どもの高校進学というタイミングで転居を決断し、元々の地元に近いところで中古マンションを購入した。杉並は結婚してからかれこれ15年以上住んだところなので寂しさも大きいが、新たな住まいは初めて自分が好きにできる所有物件ということで、懐具合と相談しながらも絶賛リフォーム中だ。これが初めて施主の立場を経験するよい機会にもなっている。

実は転居を決断してマンション探しをすること1年以上になる。紆余曲折あっていろんな地域のたくさんの物件を見て回ったが、最終的にはなかなか素敵な物件に巡り会えたと思う。駅からのアクセスは少々不便だが、その分周辺に緑が多く静かな環境に恵まれている。しかも5階建ての最上階と眺望もよく気持ちがいい。そして何と言ってもひと目見てかっこいい建築で、見学して即決したほどである。建築家の藤木隆男さんが約25年前に設計して建てたマンションだった。

南面のファサードはバルコニーの手すり壁が有孔ブロックで構成されることで緑が透けると同時に厚みが感じられて彫りが深い。屋根の形状は緩い円弧が2つ重なってRC造でありながら軽やかで、低く張り出した庇が景色を切り取って落ち着きをもたらしている。最上階はこの屋根形状が住戸の天井の形状にも現れていて、それが個性的な空間を作り出していた。この最上階が空いているというのはそうそうないことだと思ったのが即決した理由だ。

実は見学した時の状態は、以前のオーナーが一度大規模に改修した後のもので、主に音楽のための防音仕様の部屋になっていたことと、屋根形状を利用して小屋裏収納をつくっていたことが特徴だった。今回のリフォームはあまりお金を掛けられないこともあってスケルトンにすることまではせずに間取りは変えていない。水回りは全て取り替えるのと、せっかく防音仕様にしていた分厚い内装は極力剥がして少しでも面積を増やすべく貼り替えている。床はゴムの木の無垢フローリング、天井はラワン合板、そして壁は塗装クロスの上からしっくい塗料という、極力自然素材を使って仕上げる。しかも壁の塗装はなんとかDIYでやってみるという、忙しいのに無謀なことにチャレンジしている。

それ以外の特徴はキッチンの間仕切り壁を壊してアイランド型にしたことと、小屋裏収納をリビング側に開いて空間として繋げたことだ。マンションなのに小屋裏があって上がれるのは面白く、小屋裏自体は天井が低くて物置としてしか使えそうもないが、換気扇を設置して高い天井から空気を逃がす役割もあるのはうれしい。
実はもうそろそろ仕上げの段階で、早く塗装をしなくてはならない状態だ。各居室では緩い勾配の傾斜天井がラワン合板で強調されていて、なんとなく建物をリスペクトしているのではないかと自分勝手に解釈している。しかしそれも自分で塗らないと終わらないんだよな。家族を巻き込んで夜な夜な塗装することも覚悟しているが、そんな経験も住まいのストーリーとしては捨てたもんじゃないと、信じてがんばりたい。

2024/10/31