「繋柱の家」訪問

都立大名誉教授・深尾精一さんの自邸「繋柱の家」を訪問する機会があった。杉並区内の比較的近所にお住まいで、猛暑の中自転車にて馳せ参じる。閑静なエリアに馴染んだ外観と大きく張り出した松の木が印象的だったが、見どころはやはり内部で列柱に囲まれたトンネル状の空間だろう。

ご自身で設計され長年住まわれた家の増築部分がこの「繋柱の家」で、4寸角のヒノキ材を細かいピッチで並べること、ほぼそのことだけで成立している家と言っていい。4寸角材は柱・梁構造の軸が基本となり、それらを連続させることで面としての壁となり天井となっている。驚いたことに土台の角材も現しで連続させ床になっているため、四周をヒノキ材にぐるりと包み込まれることになる。
かといって閉鎖的ではなく、連続する角材の1寸の隙間からは光が漏れて明るく、壁の一部や天井では曲面を描いて幻想的な空間になっている。隙間にはガラス戸が入り込むなど余分な要素を削ぎ落とすディテールにかなり力が入っていた。

自分でも住宅や動物病院で無垢の木材を列柱やルーバーとして採用することは多い。構造材の柱を現しで連続させ、光やファサードをデザインした例としては「元住吉からき動物病院」があるが、木材の使用割合というか密度のレベルは全く敵わない。この病院の例でさえ何本もの柱を立てることには躊躇し、間に入れ込むガラスの仕様やディテールには頭を悩ましたものである。
「繋柱の家」はそれとは逆の発想で、4寸角のヒノキ材だけでどこまでできるかという考え方で実現していると思える。そしてそれが構造や壁や性能さえも満たしてしまうというところに、この試みの価値があるのだろう。

深尾さんは建築士会杉並支部会員として名前がありながら面識はなく、都立大の先生として元々穏やかな印象の方だった。語り口にはこの家への愛が溢れていて、招かれる建築人たちに話し出すと止まらないといった感じだ。しかしこれを実現させるには協力者や施工者を巻き込んで行くかなり強い意思があったに違いない。そのお人柄と強い意志の、ある意味ギャップが印象的であった。
25年以上経ってなお良好な状態のヒノキと色褪せない空間、未だ驚かされる思考と技術。家路の熱々の路面で自転車を漕ぎながら、それらを今の自分にフィードバックさせてみる。貴重な体験をさせてもらいました。

2023/08/31